「AIが普及したら、事務職はなくなるのでは?」
生成AIを仕事で使う企業が増え、この疑問は以前より現実的なものになりました。
メールを書く。
議事録を作る。
請求書の内容を入力する。
Excelの数字を集計する。
問い合わせ内容を分類する。
会議資料のたたき台を作る。
こうした仕事は、すでにAIや業務システムで短時間に処理できるものが増えています。
では、本当に事務職そのものがいらなくなるのでしょうか。
2026年時点で考えるなら、答えは少し違います。
先に減るのは「事務職」という職種ではなく、事務職の中にある入力・転記・検索・整理・初稿作成といった作業です。
その結果、一人の担当者が扱える仕事量が増えれば、企業によっては事務部門の必要人数が少なくなる可能性があります。
一方で、AIが処理した内容を確認する、例外へ対応する、数字の意味を読む、人と調整する、業務そのものを改善するといった仕事は残ります。
これからの事務職は、
「情報を処理する人」から「AIが処理した情報を使って会社を動かす人」へ。
少しずつ役割が変わっていくと考えると、現在起きている変化を理解しやすくなります。
結論|AIで事務職はなくなる?まず減りやすいのは5つの作業
事務職の中でも、AIや自動化の影響を受けやすいのは次の仕事です。
- 入力する
- 転記する
- 探す
- まとめる
- 初稿を作る
反対に、人へ残りやすいのは、
- 確認する
- 例外へ対応する
- 判断する
- 人と調整する
- 業務を改善する
仕事です。
| 業務 | AI・自動化しやすい部分 | 人に残りやすい部分 |
|---|---|---|
| 経理 | 請求書読取、入力、照合、集計 | 例外処理、確認、数字の分析 |
| 採用 | 求人文、日程調整、応募情報整理 | 面接、人物理解、採用判断 |
| 総務・労務 | 定型案内、書類整理、FAQ | 個別相談、制度判断、調整 |
| 問い合わせ | 分類、FAQ、返信初稿 | クレーム、交渉、例外対応 |
| 資料作成 | 構成、要約、表、文章の初稿 | 何を伝え、何を決めるか |
| 議事録 | 文字起こし、要約、ToDo抽出 | 決定事項・責任者の確認 |
| データ集計 | 定型集計、グラフ、異常値抽出 | 数字の意味を読み行動を決める |
つまり、「事務職がなくなるか」と考えるより、自分が1日に行っている仕事のうち、どこまでAIへ渡せるかを見る方が実用的です。
ILOでも事務系職種は生成AIの影響を受けやすいとされている
国際労働機関(ILO)が2025年に公表した「Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure」では、世界の労働者のおよそ4人に1人が、何らかの生成AIへの曝露がある職業に就いていると推計されています。
その中でも、最も高い曝露が続いているのが事務系職種です。
具体的には、
- データ入力
- タイピング
- 記帳・経理補助
- 事務秘書
などが影響を受けやすい仕事として挙げられています。
ただし、ILOが示しているのは「4人に1人が失業する」という話ではありません。
多くの職業には人間が必要な業務が残るため、最も起こりやすいのは職業の消滅ではなく、仕事内容の変化とされています。
事務職も同じです。
入力や資料作成が減っても、すべての業務が消えるわけではありません。
日本でも事務職はAIの影響を実感しやすい職種になっている
厚生労働省の「令和7年版 労働経済の分析」では、AI等の職場への導入について、事務、営業、管理、ITなどの非現場職では、「煩雑なタスクから解放される」「仕事のパフォーマンスが向上する」と考える人が比較的多いことが示されています。
パソコン上で行う業務が多く、すでにAIの使い道を想像しやすいためと考えられます。
一方、事務職では、AI導入によって「職場で取り残されることが心配」と感じる人の割合も比較的高いと分析されています。
この二つは矛盾していません。
AIを使えば仕事は楽になる。
でも、自分が担当している仕事そのものも減るかもしれない。
事務職では、その両方を実感しやすいということでしょう。
日本企業のAI活用は2026年でも「まず業務効率化」が中心
AIについては、「もう会社の仕事の大半がAI化している」という印象を持つこともあります。
しかし、日本企業全体を見るとまだそこまでは進んでいません。
IPAの「DX動向2026」では、AI導入は大企業を中心に広がり、多くの企業が何らかの効果を感じている一方、その用途と効果は業務効率化・迅速化が中心とされています。
AIを使って新しい事業や企業価値を作るところまで進んでいる企業は、まだ限定的です。
これは事務AI化を考えるうえで重要です。
2026年時点で現実的なのは、
「AIが会社を自動経営する」
ことより、
「毎日1時間かかっていた事務作業を20分にする」
ところから始めることです。
1.経理はAIでどう変わる?入力する仕事は減りやすい
事務業務の中でも、自動化との相性がよいのが経理です。
経理には、
- 請求書を受け取る
- 領収書を整理する
- 金額・日付・取引先を入力する
- 勘定科目を設定する
- 入金を確認する
- 売掛金を管理する
- 月次数字を集計する
といった処理があります。
OCRやクラウド会計によって、請求書・領収書から必要な情報を読み取る仕組みはすでに使われています。
生成AIやAIエージェントが加わると、その前後まで処理範囲が広がります。
経理でAI化しやすい仕事
- 請求書から金額・日付・取引先を抽出する
- 勘定科目の候補を出す
- 請求情報と入金を照合する
- 経費を分類する
- 月次数字を要約する
- 前月・前年との差を抽出する
- 異常な数値を担当者へ知らせる
以前の経理担当者は、「数字を作る」ために多くの時間を使っていました。
これからは数字そのものをシステムが作り、担当者は数字が正しいか、なぜ変化したかを見る仕事へ時間を移せます。
経理担当者が不要になるわけではない
経理には、AIだけでは処理しにくい例外があります。
例えば、
- 通常とは違う取引が発生した
- 会計処理方法を確認したい
- 利益率が急に下がった
- 未入金が増えている
- 予算から大きく外れている
といった場面です。
また、税務や会計上の重要な判断を生成AIの回答だけで確定するのは避けた方がよいでしょう。
今後の経理担当者は、
入力する人 → システムの処理を確認する人 → 数字から会社の状態を説明する人
へ役割を広げていくことになります。
AI時代は「Excelが速い」より「数字がおかしいと気づける」が強い
例えばAIが、
「今月の売上は前月比12%増えていますが、粗利益率は3ポイント低下しています」
と自動でまとめたとします。
そこで必要なのは、さらに表をきれいに作ることではありません。
なぜ粗利益率が下がったのかを調べることです。
仕入価格が上がったのか。
値引きが増えたのか。
利益率の低い商品が売れたのか。
広告費や外注費の影響なのか。
数字を入力する力より、数字から質問を作る力。
経理事務では、この差が大きくなっていくでしょう。
2.採用はAIでどう変わる?「応募者を処理する仕事」は減らせる
採用担当者の仕事は、面接だけではありません。
- 求人票を作る
- 応募情報を整理する
- 候補者へ連絡する
- 面接日程を決める
- 面接記録を残す
- 採用進捗を管理する
など、多くの事務作業があります。
採用でAI化しやすい仕事
- 求人票の初稿
- 求人媒体ごとの文章調整
- 応募情報の一覧化
- 日程候補の調整
- 定型メール作成
- 面接の文字起こし
- 面接内容の要約
- 面接質問の案出し
ここまでをAIへ任せられれば、採用担当者は応募者と実際に話す時間を増やせます。
採用の合否をAIだけに決めさせない
採用AIは便利ですが、使い方には注意が必要です。
採用では、
- 氏名
- 住所
- 職歴
- 学歴
- 面接内容
- 社内評価
など、多くの個人情報を扱います。
また、AIによる評価には、使用したデータや評価基準によって偏りが生じる可能性があります。
経済産業省の「AI事業者ガイドライン第1.2版」でも、AI利用にあたっては、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、透明性などが重要な考え方として整理されています。
採用では、
AIが情報を整理する → 人が候補者と話す → 人が採用判断をする
という使い方を基本にする方が扱いやすいでしょう。
AI時代の採用担当者は「履歴書を見る人」から「採用を成功させる人」へ
応募情報の転記や日程調整が減れば、その時間を別の仕事へ使えます。
- 仕事内容を正しく伝える
- 候補者の希望を聞く
- ミスマッチを減らす
- 入社後の定着を確認する
- 求人内容そのものを改善する
つまり、
応募者を処理する仕事から、採用・定着を改善する仕事へ近づく。
採用事務もこの方向へ変わる可能性があります。
3.総務・労務は「同じ質問へ何度も答える仕事」を減らせる
社内の総務・労務担当には、繰り返し似た質問が届きます。
例えば、
- 有給休暇の申請方法
- 住所変更の手続き
- 経費精算の方法
- 育児休業の社内申請
- 健康診断の日程
- 社内規程の確認
などです。
社内規程やマニュアルを検索できるAIを整備すれば、こうした一般的な質問は社員自身で確認しやすくなります。
ただし個別の労務判断は別
「育児休業を取得した場合、自分の場合はいつからいつまでになるのか」
「この勤務状況は会社規程上どう扱うのか」
など、個人の事情や法令が関係する相談は、FAQとは性質が異なります。
AIの回答をそのまま確定させず、必要に応じて担当部署や専門家が確認します。
一般案内をAIへ移し、個別相談へ人の時間を使う。
総務・労務では、この分け方が現実的です。
4.問い合わせ対応はAI化が特に進みやすい
企業への問い合わせには、同じ質問が大量に含まれています。
- 営業時間は?
- 料金はいくら?
- 対応エリアは?
- 予約変更はできる?
- 返品方法は?
- 書類はどこへ送る?
商品情報、FAQ、社内ルールなどをAIが参照できる環境を用意すれば、一次回答を自動化できます。
現実的なのは「全部AI」ではなく「AI一次受付」
今後増えそうなのは、
問い合わせ → AIが分類 → 回答可能なら自動回答 → 判断が必要なら担当者へ
という流れです。
例えば10件の問い合わせのうち、7件をAIで解決できれば、担当者は残り3件へ時間を使えます。
人に残る問い合わせほど難しくなる
AIで簡単な質問を処理すると、人へ届く案件には、
- クレーム
- 返金・補償
- 契約トラブル
- 特殊な条件
- 安全に関わる問題
- 複数部署にまたがる相談
が多くなります。
つまり、問い合わせ担当者の仕事が楽になるだけではありません。
一件あたりの難易度はむしろ上がる可能性があります。
これから価値が高まるのは、返信件数が多い人より、AIでは解決できなかった問題を解決できる人です。
5.資料作成はかなり短時間になる
生成AIと相性がよい事務仕事の一つが資料作成です。
- 会議資料
- 営業資料
- 報告書
- 企画書
- マニュアル
- 研修資料
では、AIが、
- 構成
- 見出し
- 文章
- 要約
- 比較表
- 想定質問
の初稿を作れます。
これまで2時間かけてゼロから作っていた資料を、AIの初稿を確認・修正する形へ変えられる場合があります。
「きれいな資料を作る人」より「何を決める資料か分かっている人」へ
AIが資料を整えられるようになるほど、資料作成そのものと成果を分けて考える必要があります。
例えば売上会議なら、30ページの資料を作ることが目的ではありません。
「なぜ今月売上が落ちたのか」
「来月何を変更するのか」
を決めることが目的です。
AI時代には、
資料を作る能力より、必要な情報を選び意思決定へつなげる能力
が重要になります。
6.議事録は「書く仕事」から「決まったことを確認する仕事」へ
会議の文字起こしや要約も、自動化しやすい仕事です。
音声認識とAIを使えば、
- 全文文字起こし
- 要約
- 決定事項
- 担当者
- 期限
- 次回までのToDo
を整理できます。
会議終了直後に議事録の初稿ができている状態も珍しくなくなるでしょう。
重要会議では必ず人が確認する
AIは、
「次回までに検討する」
という発言を、
「実施することが決定した」
と誤って要約する可能性があります。
特に、
- 決定事項
- 金額
- 期限
- 担当者
- 契約条件
は、人が原文と照合して確定する運用が必要です。
7.スケジュール調整はAIエージェントと相性がよい
「Aさん、Bさん、Cさん全員が空いている時間を探してください」
「候補日を先方へ送ってください」
こうした業務は、カレンダーやメールと連携するAIエージェントと相性があります。
将来的には、
- 参加者の空き時間を確認
- 候補日時を作成
- 参加者へ連絡
- 会議URLを作成
- 前日に通知
まで連続処理するケースが増えるでしょう。
ただし、外部へメールを送る、予約を確定するなど「実際に行動するAI」では、権限設定や誤操作への対策も重要になります。
8.データ集計は「月末に作る」から「常に見える」へ
毎月末に複数のExcelから数字を集めている会社もあります。
例えば、
- 売上
- 問い合わせ数
- 契約数
- 広告費
- 在庫
- 人件費
- 残業時間
です。
システムを連携できれば、数字そのものは随時更新できます。
さらにAIが、
「問い合わせが先週比30%減少」
「A商品の粗利益率が悪化」
「B拠点だけ残業時間が増加」
と変化を知らせる。
すると事務担当者は、
「先月の数字を作る人」から「今起きている問題を見つける人」
へ役割を変えられます。
事務職で「特に減りやすい仕事」はどんなもの?
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」でも、2030年に向けて減少が見込まれる職種として、事務・秘書系職種、データ入力、銀行窓口、経理・監査関連などが挙げられています。
ただし、この予測を日本のすべての事務職へそのまま当てはめることはできません。
職種名より仕事の中身を見た方が分かりやすいでしょう。
影響を受けやすい仕事の特徴
- 入力と出力の形式が決まっている
- 同じ作業を繰り返す
- パソコン内だけで完結する
- 正しいか簡単に確認できる
- 過去の情報から回答を作れる
- 人との交渉や判断が少ない
例えば「メールの内容を読んでA・B・Cのフォルダへ振り分ける」といった仕事は自動化しやすいでしょう。
一方、「怒っている重要顧客へ誰がどう対応するか」は同じ事務でも性質が違います。
AI時代でも人に残りやすい事務仕事
| 仕事 | 人が必要になりやすい理由 |
|---|---|
| 例外処理 | ルールに当てはまらない |
| 数字の分析 | 会社固有の事情を考える必要がある |
| 採用面接 | 対話・価値判断が必要 |
| クレーム対応 | 感情・交渉・責任がある |
| 部署間調整 | 複数の利害を調整する必要がある |
| AIの確認 | 誤情報や処理ミスを検証する必要がある |
| 業務改善 | 何を変えるべきか人が決める |
| 最終承認 | 責任を持った判断が必要 |
AI時代の事務職は「処理速度」より「判断力」が重要になる
これまでは、
「入力が速い」
「Excelが得意」
「資料をきれいに作れる」
ことが評価される場面が多くありました。
これらが不要になるわけではありません。
ただしAIが補助できるようになると、差が出るのはその先です。
- この数字はおかしいと気づく
- AIの回答が社内ルールと違うと判断する
- 重要な問い合わせだけを上司へ上げる
- 問題の原因を考える
- 仕事そのものを変える
速く処理する力から、正しく確認し、次の行動を決める力へ。
事務職の評価軸も少しずつ変わっていくでしょう。
新人事務職には「経験を積む入口」が減る問題もある
AI化にはメリットだけではありません。
これまで新人は、
- データ入力
- 議事録
- 資料整理
- 簡単なメール
- 集計
- 定型問い合わせ
を担当しながら会社の仕事を覚えてきました。
ところが、こうした新人向けの仕事ほどAIが得意です。
企業が単純作業をすべてAIへ移すなら、別の教育方法が必要になります。
例えば、新人にも最初からAIを使わせながら、
- なぜこの回答になるのか
- 数字は正しいか
- どこを人が確認するのか
- 例外が起きたらどうするか
を考えさせる。
「入力を3年間やって仕事を覚える」から、「AIの結果を検証しながら仕事を覚える」へ。
新人教育も変える必要があります。
AIを使えるだけでは、いずれ差にならなくなる
2026年現在は、「生成AIを仕事で使っています」というだけでも先進的に見える場面があります。
ただ、AI利用が一般化すれば、WordやExcelを使えることと同じように、それ自体は大きな差ではなくなるでしょう。
大切なのは、
AIを使った結果、仕事をどう改善したか。
例えば、
「AIでメールを書けます」
より、
「問い合わせの一次分類を自動化し、担当者1人あたり毎日50分の時間を削減した」
方が会社にとって価値があります。
2026年のデジタルスキル標準でも「AIを前提に仕事を変える力」が重視されている
経済産業省は2026年4月、デジタルスキル標準をver.2.0へ更新しました。
AI活用やAX(AIトランスフォーメーション)の進展を踏まえ、AIを使う前提となるデータ管理・活用の重要性を高めています。
また、単にツールを操作するだけではなく、ビジネスを変革し、関係者を巻き込みながら改善を進める役割も重視されています。
事務職でも同じです。
「ChatGPTの使い方」を学ぶだけでなく、「この会社の仕事をどう変えるか」を考えられることの方が長期的には重要になります。
これから事務職が身につけたい7つの力
1.AIの結果を確認する力
AIは自然な文章で間違えることがあります。
数字、社内規程、契約条件、法令などを確認できる力が必要です。
2.数字を読む力
集計作業が自動化されるほど、「なぜ増えた・減ったのか」を考える力が重要になります。
3.業務改善力
「どうやってこの作業を早くするか」だけではなく、「そもそもこの作業は必要か」を考えます。
4.コミュニケーション力
AIでは処理できない調整、クレーム、面談などが人へ残ります。
5.専門知識
経理、採用、労務、営業事務など、自分の分野を理解しているほどAIの誤りを判断できます。
6.データを整える力
AIへ渡す社内データが古い、重複している、表記がバラバラでは、良い回答は作れません。
7.AIへ任せてはいけない仕事を判断する力
何でもAIへ渡せばよいわけではありません。
金額、契約、採用、個人情報、安全に関わる仕事では、人の確認を残す必要があります。
特に慎重に扱いたい「AIへ丸投げしない事務」
| 業務 | 注意する理由 |
|---|---|
| 採用の合否 | 公平性・本人への影響が大きい |
| 給与・人事評価 | 従業員への影響が大きい |
| 契約条件の決定 | 法的・金銭的な責任がある |
| 返金・補償判断 | 会社の責任が発生する |
| 税務・会計上の重要判断 | 制度確認が必要 |
| 安全に関する顧客回答 | 誤回答による影響が大きい |
AIに下調べや情報整理をさせることはできます。
ただし、最終判断者までAIにするかは別問題です。
事務AIで特に注意したいのは個人情報・機密情報
事務部門には、AIへ気軽に貼り付けない方がよい情報が大量にあります。
- 顧客氏名
- 住所
- 電話番号
- 給与
- 人事評価
- 履歴書
- 売上データ
- 取引条件
- 契約書
- 未公開の商品・事業情報
個人情報保護委員会は、事業者が生成AIへ個人情報を入力する場合、利用目的の範囲内かを確認することや、入力情報が応答生成以外の目的に利用されないかなどを確認するよう注意喚起しています。
例えば社員が個人判断で、一般向け生成AIへ応募者の履歴書を丸ごと貼り付ける。
これは避けた方がよい運用です。
「禁止」か「自由利用」ではなく、会社としてAI利用ルールを作る
IPAが公表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」では、生成AIの業務利用について何らかのルールを定めている企業は52.0%でした。
裏を返せば、約半数では明確なルールがない状態ともいえます。
少なくとも、
- 利用してよいAIサービス
- 入力してよい情報
- 入力禁止の情報
- 個人情報の扱い
- AI回答を人が確認する業務
- AIから外部送信させてよい範囲
は会社で決めておきたいところです。
中小企業なら、最初から事務部門を完全自動化しなくていい
AI導入というと、大規模なシステム開発を想像するかもしれません。
しかし、小さな会社なら毎日発生している小さな仕事から始める方が効果を確認しやすくなります。
最初に試しやすい仕事
- 会議メモの要約
- 公開情報の調査
- 社内メールの初稿
- 資料構成の案出し
- 問い合わせの分類
- 社内マニュアルの検索
理由は、AIが間違っても人が比較的簡単に確認できるためです。
事務AI化を失敗しにくくする5ステップ
STEP1|まず時間を測る
「事務が忙しい」だけでは、AIをどこへ入れればよいか分かりません。
例えば、
- 議事録:週3時間
- 問い合わせ分類:週5時間
- 売上集計:月6時間
- 会議資料:月10時間
と、現在の時間を出します。
STEP2|仕事を3つに分ける
AIに任せる / AIと人で行う / 人が行う
に分けます。
STEP3|一つの仕事だけ試す
全社導入ではなく、議事録や問い合わせ分類など一業務から始めます。
STEP4|人が確認する場所を先に決める
重要な数字、顧客回答、契約、採用など、どこを誰が確認するか決めます。
STEP5|AI化したら古い作業を消す
ここが非常に重要です。
AIで議事録を作ったあと、担当者が同じ内容をExcelへ手入力し、さらに紙へ印刷して別部署へ渡す。
これではAIを一つ追加しただけです。
AI化の本当の効果は「新しい仕事を追加すること」ではなく、「人がやらなくなった仕事を業務フローから消すこと」で生まれます。
AI導入効果は「何回使ったか」ではなく、この数字を見る
| KPI | 見ること |
|---|---|
| 作業時間 | 何分・何時間減ったか |
| 処理件数 | 同じ人数で何件増えたか |
| AI出力の修正率 | どの程度手直しが必要か |
| ミス・誤回答 | 品質が下がっていないか |
| 残業時間 | 社員の負担が減ったか |
| 回答時間 | 顧客対応が速くなったか |
| 一人あたり処理件数 | 生産性が上がったか |
さらに経営効果まで見るなら、
- 一人あたり売上
- 一人あたり粗利益
- 顧客満足度
- 採用決定までの日数
- 未入金の減少
など、事務処理の先にある数字も確認します。
AI化すると事務部門の人数は減る?
企業によっては減る可能性があります。
例えば、10人で行っていた入力、資料作成、問い合わせ対応の一部を自動化し、7~8人でも同じ仕事量を処理できるようになるケースです。
ただし、AI導入=人員削減とは限りません。
空いた時間を、
- 顧客フォロー
- 採用活動
- 営業支援
- データ分析
- 業務改善
- 新規事業
へ使えば、同じ人数で会社を大きくすることもできます。
AIで3人減らすのか、3人分の時間を新しい仕事へ使うのか。
ここはAIではなく経営判断です。
AI時代に事務職の価値を上げるなら「成果へ一歩近づく」
自分の仕事がAI化されそうなら、作業を守るより役割を広げた方が現実的です。
| これまで | AI時代に広げたい役割 |
|---|---|
| 請求書を入力する | 未入金や利益変化を見つける |
| 応募者を整理する | 採用・定着を改善する |
| 問い合わせへ返信する | 問い合わせ自体を減らす |
| 売上資料を作る | 売上が変化した理由を調べる |
| 議事録を書く | 決定事項が実行されたか追う |
| データを入力する | データがおかしい場所を見つける |
AIに取られやすいのは「成果物を作るまで」。その成果物を使って会社を改善する側へ移るほど、人の役割は残りやすくなります。
ケース別|事務AIはこう使うと分かりやすい
ケース1|毎週3時間かけて議事録を作っている
会議の文字起こし・初稿をAIへ任せ、決定事項・担当者・期限だけ人が確認します。
削減できた時間は、ToDoの進捗確認へ使います。
ケース2|経理担当者が毎日請求書を入力している
OCR・会計システムで入力を減らし、担当者はエラー、未入金、数字の変化を確認します。
ケース3|採用担当者が日程調整だけで忙しい
候補日時の提示や定型連絡を自動化し、面談・候補者フォローへ時間を使います。
ケース4|問い合わせが多すぎて電話・メールが返せない
まず問い合わせを種類別に集計します。
回答が決まっているものはFAQ・AIへ移し、判断が必要な相談だけ担当者へ回します。
ケース5|AIを導入したのに残業が減らない
AI導入後も旧作業が残っていないか確認します。
AIで文章を作り、人が別システムへ転記しているなら、次に改善するべきはAIではなくシステム間の連携です。
事務職のAI化でよくある勘違い
「AIで事務職は全部なくなる」
現時点の主要な研究はそこまで単純な結論を示していません。事務系職種のAI曝露は高いものの、職業全体の消滅より仕事内容の変化が中心になる可能性が高いとされています。
「経理は全部AIへ任せられる」
入力・照合・集計は自動化しやすい一方、例外処理や重要な会計・税務判断には確認が必要です。
「採用AIなら人より公平」
AIにも使用データや設計による偏りが生じる可能性があります。重要な採用判断には人を残す方が安全です。
「AIチャットを置けば問い合わせ担当者はいらない」
簡単なFAQには向いていますが、クレーム、交渉、特殊案件、緊急時などは人が必要です。
「ChatGPTを使えればAI人材」
AI利用が一般化するほど、使えること自体では差がつきにくくなります。仕事時間や品質、売上などを改善できたかが重要です。
「AI導入=すぐ人員削減」
AIで生まれた時間を新しい仕事へ使う企業もあります。人を減らすか事業を伸ばすかは別の経営判断です。
FAQ|AIと事務職についてよくある質問
Q1.AIで事務職はなくなりますか?
一部の作業や必要人数が減る可能性はありますが、事務職がすべてなくなるとは考えにくいでしょう。入力・転記・要約・初稿作成から先にAI化し、人は確認・判断・調整・改善へ移る可能性が高いと考えられます。
Q2.一番AI化しやすい事務仕事は何ですか?
データ入力、議事録、定型メール、資料の初稿、請求書からの情報抽出、問い合わせ分類、定型集計など、入力と出力の形式が決まっている業務です。
Q3.経理担当者は何を勉強すればいいですか?
会計の基礎に加えて、数字の分析、AI出力の確認、データ連携、会計システムの活用などを身につけると仕事の幅を広げやすくなります。
Q4.採用で履歴書を生成AIへ入れてもいいですか?
応募者の個人情報を含むため、職員個人の判断で一般向け生成AIへそのまま入力するのは避けた方がよいでしょう。会社が認めたサービスか、入力データの保存・二次利用条件、社内ルールを確認してください。
Q5.問い合わせ対応は完全無人化できますか?
回答が決まっている問い合わせはAI化しやすい一方、クレーム、契約、補償、安全に関する相談などは人へ回す仕組みを残す方が現実的です。
Q6.中小企業が最初にAI化するなら何がおすすめですか?
議事録、社内文章、公開情報の調査、資料構成、問い合わせ分類など、繰り返し発生し、人が短時間で確認できる仕事から始めると効果を測りやすくなります。
Q7.AI時代でもExcelは勉強する意味がありますか?
あります。ただし、操作方法を覚えるだけではなく、データ構造や計算の意味を理解することがより重要になります。AIが式や分析を作っても、その結果が妥当か判断するための知識は必要です。
Q8.40代・50代の事務職でもAIを覚える意味はありますか?
あります。長く働いてきた人ほど、社内ルール、顧客、例外処理などの実務知識を持っています。その知識は、AIの回答が現場に合っているかを確認するうえで強みになります。
要点まとめ
- 事務系職種は生成AIの影響を受けやすい職種群の一つ
- 先に減りやすいのは事務職そのものではなく入力・転記・検索・整理・初稿作成
- 経理では請求書処理・照合・集計がAI化しやすい
- 経理担当者は入力より数字の確認・分析へ役割を広げやすい
- 採用では求人文・日程調整・情報整理などを効率化できる
- 採用の最終判断をAIだけへ任せない
- 問い合わせはAI一次対応+難しい案件を人へ回す形が現実的
- 資料・議事録は初稿作成を大きく効率化できる
- AI化すると人へ残る問い合わせや事務仕事の難易度は上がる可能性がある
- 個人情報・機密情報には会社としてAI利用ルールが必要
- AIを使えることより、AIで業務を改善できることが重要
- 事務職は「処理する人」から「確認・判断・改善する人」へ変わっていく
まとめ|AI時代の事務職は「会社の後方で作業する人」から「会社を前へ進める人」へ
AIによって、事務職の仕事はかなり変わります。
請求書を入力する。
履歴書から情報を転記する。
問い合わせを分類する。
議事録を書く。
月末に数字を集計する。
資料の文章を書く。
こうした仕事は、今後さらにAI・自動化へ移っていくでしょう。
事務系職種が生成AIの影響を受けやすいことは、ILOなどの調査からも確認できます。
しかし、AIが仕事を処理するほど、人間には別の仕事が残ります。
数字がおかしいと気づく。
AIが間違ったら止める。
難しい顧客へ対応する。
応募者と話す。
部署同士を調整する。
無駄な業務をなくす。
そして、集めた情報を使って次の行動を決める。
AIでなくなりやすいのは「事務職」という名前ではなく、事務職の中に残っている単純な情報処理です。
そのため、事務職として将来に備えるなら、AIにできる仕事を守り続けるより、自分からAIへ渡してしまう方がよいかもしれません。
入力をAIへ任せ、数字を見る。
議事録をAIへ任せ、決まったことが実行されたか追う。
問い合わせの一次回答をAIへ任せ、難しい顧客を解決する。
求人文をAIへ任せ、候補者と向き合う。
「作業を速くする人」から「AIを使って仕事そのものを良くする人」へ。
ここまで役割を移せれば、AIは事務職を奪う存在だけではなく、自分の仕事を一段上へ動かす道具になります。
2026年時点の日本企業でも、AI活用の中心はまだ業務効率化・迅速化です。
だからこそ次の差は、AIを導入したかではなく、
AIで空いた時間を何に使ったか。
そこから生まれてくるのではないでしょうか。
事務AI化を始める前のチェックリスト
- 毎日・毎週繰り返している事務作業を書き出したか
- 作業ごとの時間を測ったか
- AIに任せる・人とAIで行う・人が行うに分類したか
- 個人情報や機密情報を入力しないルールがあるか
- 重要なAI出力を誰が確認するか決めたか
- AI化した後に不要な旧作業を削除したか
- 時間短縮だけでなくミス率・品質も確認しているか
- 空いた時間を分析・顧客対応・業務改善へ使えているか
主な参考情報
- 国際労働機関(ILO)「Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure」
- World Economic Forum「Future of Jobs Report 2025」
- 厚生労働省「令和7年版 労働経済の分析」
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン 第1.2版」
- 経済産業省「デジタルスキル標準 ver.2.0」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」
- IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」
- IPA「DX動向2026」




